全国通訳案内士に興味を持っているけれど、試験についてはよくわからない……。そんな人も多いのではないでしょうか。
全国通訳案内士の試験は筆記試験と口述試験に分かれており、高い語学力はもちろん、日本の地理?歴史についての深い知識や一般常識も問われます。
合格のために主に必要となる知識は、大きく分けるとこの5つです。
この記事では、当ブログを運営する神田外語学院の講師を務める全国通訳案内士(中国語)の金子真生先生の監修で、
?全国通訳案内士試験の概要
?全国通訳案内士試験の出題傾向
?全国通訳案内士試験の対策法
などを解説していきます。最後まで読んで、全国通訳案内士への一歩を踏み出してみてください。
全国通訳案内士とは
外国人を日本全国に案内し、日本の歴史や文化、習慣を外国語で紹介する「通訳ガイド」の仕事です。全国通訳案内士を名乗って仕事をするには、年に一度実施される全国通訳案内士試験に合格し、自治体に登録しなければなりません。
1.全国通訳案内士試験の概要
全国通訳案内士として必要な知識や能力を測るため、毎年1回実施される試験です。英語だけでなく、他にもフランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語の全10言語の資格があります。
外国語の能力だけでなく、日本の地理や歴史に関する深い知識、政治経済などの一般常識も必要な難関国家試験です。
1-1.受験資格
受験資格は特にありません。年齢?性別?国籍?学歴?職業などにかかわらず、誰でも受験できます。
1-2.試験内容
試験は一次試験(筆記)と二次試験(口述)に分かれており、一次試験合格者のみが二次試験に進めます。
一次試験(筆記)
筆記試験は「外国語」、「日本地理」、「日本歴史」、「産業?経済?政治及び文化に関する一般常識(以下、一般常識)」、「通訳案内の実務」に分かれています。
【外国語】
外国語文の読解問題や、外国語文の日本語訳?日本語文の外国語訳問題、外国語で日本文化などを説明する問題が出題されます。試験時間は120分で、試験方式は以下の通りです。
英語 | マーク式 |
中国語(簡体字?繁体字)、韓国語 | 記述式及びマーク式 |
フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、タイ語 | 記述式 |
【日本地理】
日本の観光地などに関連する日本地理についての内容のうち、外国人観光客が強い関心をもつものについて、基礎的な知識をマーク式で問われます。地図や写真を使った問題が中心で、問題数は40問程度、試験時間は40分です。
【日本歴史】
日本の観光地などに関連する日本歴史についての内容のうち、外国人観光客が強い関心をもつものについて、基礎的な知識をマーク式で問われます。地図や写真を使った問題が中心で、問題数は40問程度、試験時間は40分です。
【一般常識】
現代の日本の産業、経済、政治及び文化についての内容のうち、外国人観光客が強い関心をもつものについて、基礎的な知識をマーク式で問われます。最新の観光白書(国土交通省が発行する観光に関する報告書)や新聞に掲載された時事問題がベースで、問題数は20問程度、試験時間は20分です。
【通訳案内の実務】
2018年度試験から実施された新しい科目です。通訳案内の現場において求められる基礎的な知識をマーク式で問われます。原則的に観光庁研修のテキストを試験範囲として20問程度出題され、試験時間は20分です。
二次試験(口述)
通訳案内の現場で必要とされるコミュニケーションの実践的能力を測るため、試験委員を相手に通訳案内のシミュレーションを行います。内容は2題に分かれており、試験時間は全体で約10分です。
【通訳案内の現場で必要となる知識などに関する外国語訳と、全国通訳案内士として求められる対応に関する質疑】
試験委員が読み上げる日本語を外国語訳し、その問題に関連した質疑を行います。
【プレゼンテーション問題】
提示される3つのテーマから1つを選び、外国語で説明を行います。その後、そのテーマについて試験委員と外国語で質疑応答をします。
1-3.合格基準
一次試験の合格基準
試験科目ごとに合否が判定されます。合格基準点は以下の通りです。
全ての科目で合格基準点を満たしていれば一次試験合格です。なお、合格基準点は平均点によって調整される場合があります。
二次試験の合格基準
評価項目ごとの具体的な基準に基づいて評価され、原則的に合格基準点は7割です。評価項目は以下の5点です。
語学力だけでなく、ホスピタリティや臨機応変な対応力など、人間的な面も評価の対象です。ただ外国語が得意というだけでは合格できません。
1-4.難易度?合格率
2020年度試験の受験者数は5,078人、最終合格者数は489人でした。合格率は9.6%で、難易度の高い試験だということがわかります。なお、一次試験の合格率は18%です。相当数が筆記試験でふるい落とされているということです。
合格率の推移
2011年度試験から2020年度試験までの全体の合格率は、以下のように推移しています。
(データ)受験者及び合格者数、合格基準|全国通訳案内士試験|日本政府観光局(JNTO)
平均を取ると約16%ですが、2016年度以降は低下傾向にあります。2018~2020年度は10%を割りました。
受験言語ごとの合格率
2020年度試験の受験言語ごとの合格率は以下の通りです。
(データ)受験者及び合格者数、合格基準|全国通訳案内士試験|日本政府観光局(JNTO)
1-5.試験免除制度
筆記試験の一部科目については、特定の資格?検定試験に合格している場合、免除申請ができます。日本歴史や一般常識については大学入試センター試験も含まれているので、知らず識らずのうちに免除対象になっているかもしれません。以下のリストで確認してください。
外国語筆記試験 免除対象
英語 | 英検1級、TOEIC? Listening & Reading Test 900点以上、TOEIC? Speaking Test 160点以上、TOEIC? Writing Test 170点以上のいずれか |
フランス語 | 実用フランス語技能検定試験1級 |
スペイン語 | スペイン語技能検定試験1級、DELE C1、DELE C2、DELE Superiorのいずれか |
ドイツ語 | ドイツ語技能検定試験1級 |
中国語 | 中国語検定試験1級、HSK6級180点以上、旧HSK高等試験9級以上のいずれか |
イタリア語 | 実用イタリア語検定試験1級 |
韓国語 | ハングル能力検定試験1級、TOPIK6級のいずれか |
※ポルトガル語、ロシア語、タイ語については免除対象の資格?検定試験はありません。
※TOEIC?については、全国通訳案内士試験を受験する年度または前年度に取得した公開試験の得点が対象です。
日本地理筆記試験 免除対象
総合?国内旅行業務取扱管理者、一般?国内旅行業務取扱主任者、一般?国内旅行業務取扱主任者認定証保有者のいずれか
日本歴史筆記試験 免除対象
歴史能力検定日本史1級?2級、大学入学共通テスト(大学入試センター試験)「日本史B」60点以上のいずれか
一般常識筆記試験 免除対象
大学入学共通テスト(大学入試センター試験)「現代社会」80点以上
※大学入学共通テスト(大学入試センター試験)については、試験日から5年以内に取得した得点が対象です。
また、前年度試験で合格した筆記試験科目は免除申請が可能です。但し、免除申請できるのは翌年度の試験のみ(翌々年度以降は再度受験が必要)です。
1-6.試験日程
毎年5月頃に出願受付が始まり、8月中旬に一次試験、12月上旬に二次試験が行われます。最終的な合格発表は翌年の2月頃です。一次試験から発表まで約半年にわたる試験です。
2020年度試験の日程?時間(参考)
2020年度試験のスケジュールは以下の通りでした。
願書配布?受付 | 2020年6月1日(月)~6月24日(水) |
一次試験(筆記) | 2020年8月16日(日) |
一次試験合格発表 | 2020年11月5日(木) |
二次試験(口述) | 2020年12月13日(日) |
最終合格発表 | 2021年2月5日(金) |
また、一次試験の詳細なスケジュールは以下の通りでした。(※全て日本時間)
外国語 | 10:00~12:00 |
日本地理 | 13:30~14:10 |
日本歴史 | 14:40~15:20 |
一般常識 | 15:50~16:10 |
通訳案内の実務 | 16:40~17:00 |
1-7.受験地
受験地は複数から選択可能ですが、受験言語によって選択肢が若干異なります。
【受験言語が英語、中国語、韓国語の場合】
一次試験(筆記) | 東京近郊、大阪近郊、福岡市、札幌市、仙台市、名古屋市、広島市、沖縄県、ソウル(韓国語のみ)、台北(中国語繁体字のみ)から選択 |
二次試験(口述) | 東京近郊、大阪近郊、福岡市から選択 |
※一次試験で東京近郊、大阪近郊、福岡市を選択している場合は、二次試験も同じ受験地になります。
【受験言語がフランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、タイ語の場合】
一次試験(筆記) | 東京近郊、大阪近郊、福岡市、札幌市、仙台市、名古屋市、広島市、沖縄県から選択 |
二次試験(口述) | 東京近郊 |
このほか、遠隔地の受験者向けに、全言語を対象とした準会場が設定される場合があります。準会場で受験できるのは一次試験のみで、申請方法などが通常と異なります。
2019年度試験の準会場は、熊本外語専門学校(熊本市)と国際外語?観光?エアライン専門学校(新潟市)の2箇所でした。
1-8.受験手数料
税込み11,700円です。電子申請でクレジットカードまたはコンビニ払いを利用する場合は、別途手数料がかかります。
?クレジットカード払い
受験手数料11,700円+事務手続手数料329円=12,029円
?コンビニ払い
受験手数料11,700円+事務手続手数料324円=12,024円
※二か国語を同時受験する場合は金額が異なります。
2.全国通訳案内士一次試験 例題と過去問から見る出題傾向
2章では、過去問から見る一次試験の出題傾向を例題とともに解説していきます。
※例題は過去問を基に編集部で独自に制作したものです。過去問は日本政府観光局のサイトでご確認ください。
◆筆記試験過去問題(一部)|全国通訳案内士試験|日本政府観光局(JNTO)
2-1.外国語試験の出題傾向
ほぼ全てが観光分野の内容です。受験言語によって内容が異なるため例題は省略しますが、「灯籠流し」「花見」といった日本の風習や伝統工芸品などを外国語で説明する問題がほぼ毎回出てきます。
2-2.日本地理の出題傾向
高校で習う地理よりも観光分野に特化した内容です。特に、温泉地に関する問題はほぼ毎回出ています。国内旅行地理検定の問題も参考になります。
◆国内旅行地理検定
例題
2-3.日本歴史の出題傾向
基本的には高校で習う日本史のような内容で、様々な時代から満遍なく出題されます。文化史や文学史の問題も頻出します。
例題
2-4.一般常識の出題傾向
「産業?経済?政治及び文化に関する一般常識」ですので、就職活動などで出るような理系の設問はありません。ほとんどが国内の観光関連分野の問題です。
例題
2-5.通訳案内の実務の出題傾向
原則として観光庁の研修テキストが出題範囲になっています。2018年度試験から導入された新科目のため、まだはっきりとした出題傾向が読めません。ただ、通訳案内士法などの法令に関する問題が多い傾向です。
観光庁研修テキスト – 国土交通省 ※PDFファイルが開きます 改正通訳案内士法 |
例題
(例題の答え:2)
3.全国通訳案内士試験の勉強法?対策法
3章では、全国通訳案内士の金子先生が試験の勉強法や対策法を紹介していきます。
3-1.外国語試験の勉強法?対策法
具体的な対策方法は受験言語によって異なるため省略しますが、歴史や観光分野に関する語彙を増やしておきましょう。
英語の場合は、TOEIC?や観光英語検定の勉強も対策になります。以下の記事を参考にしてください。
過去98回TOEICで満点を取得した教師直伝!レベル別勉強法 |
3-2.日本地理試験の勉強法?対策法
地図を作って覚える
地図中で位置を示す問題が頻出するので、地名は場所まで正確に覚えましょう。白地図をB4サイズくらいで印刷し、どんどん書き込んで勉強しましょう。白地図は以下のサイトなどから無料でダウンロードできます。
おすすめ教材など
(画像引用元)元気脳練習帳『脳が活性化する大人の日本地図脳ドリル おもしろ雑学編』 | 学研出版サイト
「脳が活性化する 大人の日本地図 脳ドリル」(学研プラス)
監修:川島隆太
定価:本体1,000円+税
また、以下のサイトもおすすめです。資料集や解説動画が無料で公開されています。
◆本郷英語センター|通訳案内士予備校
3-3.日本歴史試験の勉強法?対策法
外に出て学ぶ
神社仏閣や絵画に関する問題が頻出します。博物館や美術館に行って現物を実際に見ると頭に残りやすいでしょう。余裕があれば歴史の舞台に足を運び、ガイド付きのツアーに参加してみると理解が深まります。
おすすめ教材
(画像引用元)超速!最新日本史の流れ – ブックマン社
超速!最新日本文化史の流れ – ブックマン社
「超速!最新日本史の流れ」(ブックマン社)
著:竹内睦泰
定価:本体960円+税
「超速!最新日本文化史の流れ」(ブックマン社)
著:竹内睦泰
定価:本体960円+税
3-4.一般常識試験の勉強法?対策法
6月までのニュースをチェックする
毎日ニュースをチェックすることを習慣づけましょう。特に、社会分野や、観光分野のインバウンド(訪日旅行)に関する話題に注目してください。センター試験の現代社会をざっくりと勉強しておくのもよいでしょう。
2-4で説明したように、試験問題の作成は6月頃から始まります。受験する年の6月までのニュースを重点的に確認しましょう。
3-5.通訳案内の実務試験の勉強法?対策法
試験範囲として公表されている「観光庁研修のテキスト」を読み込むことが一番の勉強法です。まだはっきりとした出題傾向が読めないので、一通り頭に入れましょう。
観光庁研修テキスト – 国土交通省 ※PDFファイルが開きます |
3-6.二次試験(口述)の対策法
正解はないので、しっかりと自分の意見を述べることが必要です。1-3で紹介した以下の5つの評価項目を意識しましょう。発音は特に大切です。
4.語学力を磨くなら神田外語学院
全国通訳案内士を目指して外国語や地理の勉強をするなら、当ブログを運営する神田外語学院がおすすめです。本稿を監修した全国通訳案内士の金子先生も講師を務めています。
?全国通訳案内士に不可欠な語学力を磨ける
?観光や地理の知識を身につけられる学科がある
4-1.全国通訳案内士に不可欠な語学力を磨ける
英語教育においては、TOEIC?対策に特化した授業を全学科に設け、15段階程度にレベル分けしたクラスで学びます。
2020年度3月の卒業生のうち、語学筆記試験の免除対象となるTOEIC?900点以上を取得した学生は28名と、高い実績を残しています。
また、800点以上取得者は145名、700点以上取得者は322名で、およそ3人中1人が700点以上を取得。このほか、入学時と比較して350点以上アップしたのは161名、400点以上アップは64名。約3人に1人が300点以上アップしました。
このほか、フランス語、スペイン語、中国語、韓国語、タイ語など、全国通訳案内士に必要な言語を学べる学科を設置しています。
4-2.観光や地理の知識を身につけられる学科がある
国際観光科では、全国通訳案内士として通用する語学運用能力を身につけるだけでなく、観光資源についての知識を深め、日本地理筆記試験の免除対象となる国内旅行業務取扱管理者の取得を目指します。
◆通訳ガイド研修
「通訳ガイド実務(インバウンド?ツーリズム)」の授業では、国際観光科で身につけたガイドとしての知識と、全学科共通科目で身につけた語学運用力を活かし、都内の観光地に足を運んで通訳ガイド研修を行います。実際に観光地を歩きながら、全国通訳案内士の先生からプロならではの視点を学びます。
◆4割の学生が約5か月で国内旅行業務取扱管理者試験に合格
2019年度の国際観光科入学者は、同年9月実施の国内旅行業務取扱管理者試験において、57名中23名が合格しました。合格率は40.3%です。
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※神田外語学院の教育の特長について、以下の記事でさらに詳しく紹介しています。
5.まとめ
この記事の内容をまとめます。
■全国通訳案内士試験の内容は、以下の筆記5科目と外国語口述
?外国語
?日本地理
?日本歴史
?一般常識
?通訳案内の実務
■出題傾向は全体的に観光関連分野
■特定の資格などを取得していると、一部の筆記試験が免除される
■近年の合格率は10%前後
全国通訳案内士試験は簡単ではありません。出題傾向を把握して、しっかり対策して臨みましょう。