最近、ファッション関連で「コア」(core)という言葉をよく聞きます。「ノームコア」や「バレエコア」と並んで注目されている「ブロークコア」や「ブロケットコア」の概要や背景をまとめました。
「ブロークコアファッション」はノスタルジアに根ざしたトレンド
最近のファッションで、「コア」(core)という用語をよく耳にします。この「コア」という接尾語は、特定の美学、ファッションスタイル、サブカルチャーを指します。
たとえば、「ノームコア」(Normcore)。これは「普通」(normal)と「コア」(core)を組み合わせた言葉。意図的に「普通で実用的な服」を採用するスタイルです。あえて目立つことを避け、シンプルなジーンズ、Tシャツ、スニーカーなど、無駄のないミニマル(最小限)な服装が特徴です。
さらに「バレエコア」(Balletcore)というトレンドも生まれています。バレエのコスチュームや練習着の繊細で女性らしく、優雅な美学からインスピレーションを受けたスタイル。レオタード、チュールスカート、バレエシューズ、ソフトなパステルカラーなど、バレエのロマンチック(情緒的)で優雅な要素が特徴です。
現在、もう一つ世界的に注目されているのが、「ブロークコア」(Blokecore)です。ブロークコアは、1990年代のイギリスのサッカー文化と「ブローク」(bloke、イギリスのカジュアルな男性を意味するスラング)から派生したスタイル。サッカージャージ、トラックパンツ、レトロなスニーカーといったカジュアルでノスタルジックなスポーツウェアが特徴で、ラフな日常感を反映するファッションです。
ブロークコアはどのように広まったのか?
ブロークコアは、TikTokやInstagramなどのソーシャルメディアで徐々に注目を集めました。もともとはアンダーグラウンド(サブカルチャー)のファッショントレンドでしたが、インフルエンサーやZ世代(1990年代後半から2000年代に生まれ)、ファッションに敏感な人々がそのカジュアルでノスタルジックな魅力に惹かれて、日常のファッションに取り入れ、急速に広がりました。「Y2Kファッション」(2000年代初期スタイル: Year 2000)の流行と同時期に、「ブロークコア」も「過去のスタイル」をノスタルジック(郷愁)かつロマンチック(情緒的)に受容する多くの若者の間で人気が高まりました。
周知のとおり、イギリスをはじめとするサッカー文化は長年にわたって世界に影響を与え続けてきましたが、その影響をシンプルさ(simplicity)と本物志向(authentic)の視点から、現代のストリートウェアのファッションと融合させたのがブロークコア現象だと分析されています。
なぜブロークコアは人気があるのか?
ブロークコアの人気には、いくつかの要因にあります。第1がノスタルジア(郷愁)です。1990年代や2000年代初期のサッカー文化への懐かしさを呼び起こし、それを直接見たり体験したり、あるいは追体験(ついたいけん)した人々の心をとらえています。
第2が、シンプルさと快適さです。カジュアルで快適な服装は、誰にでも取り入れやすい日常のスタイルです。第3が、文化的アイデンティティです。ブロークコアは、ファッションを通じてサッカーへの愛や文化的なアイデンティティを表現する手段となっています。特にヨーロッパでは、サッカーは単なるスポーツではなく、文化そのものであることは誰もが認めるところです。
第4が本物志向です。Instagramのフィード(投稿)で見られる洗練された派手なファッションスタイルに対して、ブロークコアは日常的かつ実用的、そして実際のプロスポーツに関係している「本物感」という点で共感を呼ぶファッションとして支持されています。
「クワイエットラグジュアリー」と「ブロークコア」の関係は?
ところで、「クワイエットラジュジュアリー」(Quiet Luxury、(主張しない)静かな贅沢)というファッショントレンドにも注目が集まっています。「ブロークコア」との関係はあるのでしょうか。
「クワイエットラグジュアリー」は、ロゴや目立つブランド表示を避けた控えめで高品質な衣服を強調するスタイルです。控えめなエレガンス、落ち着いた色合い、高級な素材、そしてステータスを誇示することなくフィット感や細部へこだわり。文化的には、派手な富の表現が不作法と見なされる現代において、比較的裕福な層が、ステータスを主張せずに洗練さと排他性を表現しています。
それに対して、「ブロークコア」は、フットボールシャツ、レトロなスポーツウェア、快適でカジュアルなシルエットなど、いわゆる「普通の人々」の本物らしさが感じられるファッションに由来します。時には皮肉や反体制的な雰囲気をともない、既成の価値観に対抗するストリートファン性も兼ね備えたスタイルとして人気があります。
両者はスタイルの起源や見た目は異なりますが、ともにロゴや過剰なブランド表示を拒否しています。クワイエットラグジュアリーは控えめで高品質な服を通じて、そしてブロークコアはノスタルジックで本物らしいスポーツウェアのルック(外観)を通じて個性を表現しています。
どちらのスタイルも流行に追随することへのある種の反発を示しています。両方のスタイルは、「さりげない贅沢」や「自分のルーツをリスペクトするノスタルジックなカジュアルさ」を通して、自己のアイデンティティを確認/表現するためのファッションともいえるでしょう。
ブロークコアファッションのコーディネート法
ブロークコアのスタイリングでは、シンプルでカジュアルなアイテムに重点を置くことがポイントです。第1のポイントはサッカージャージ(サッカーのトレーニングウェア)。ヴィンテージのサッカージャージは、ブロークコアスタイルの中心です。デニムショーツ(ひざ上までの短パン)やゆったりとしたズボン、トラックパンツ(陸上競技トレーニング用ボトムス)と組み合わせます。一般に、ヴィンテージファッションとは1970年代以前の洋服を意味します。
第2がトラックスーツとスポーツウェア。黒、赤、青などの落ち着いたトーンやアイコニック(象徴的)な色のアディダスやナイキのトラックスーツは、その定番です。
「トラックスーツ」(tracksuit)は、主に陸上競技で使用される上下一組のスポーツウェア。主に厚手の素材で作られており、防寒?防風?保温性に優れています。一方のサッカーなどの「ジャージ」は、薄手の素材でできており、吸汗速乾性に優れている軽いウェアです。もともとジャージとは「糸を編んで作られるポリエステル性の生地で、伸縮性がある素材」を意味します。
第3のポイントがスニーカー。レトロなスニーカー、特にアディダスのサンバやナイキのエアマックス、ニューバランスのモデルは、ブロークコアの定番。
第4がアクセサリー。シンプルなキャップや小さなショルダーバッグ、ヴィンテージのスポーツスカーフ/マフラーなどを追加して、コーディネートすることが多いようです。
くわえて、レディースファッションとして、「ブロケットコア」(Blokettecore)も人気です。「ブロークコア」(Blokecore)と「コケット」(Coquette)の合成語。「Coquette(コケット)」は、ガーリーな要素をふんだんに詰め込んだファッションスタイル。
具体的には、サッカーのユニフォームやトラックジャケット、ジャージ、ハーフジップ(胸のあたりまでファスナーがある服で着脱しやすい)のトップスといったスポーティなアイテムに、プリーツスカート(プリーツは「縦の折ひだ」)やリボン、バレエシューズ、フリルのトップス、レースのスカートといったガーリーなアイテムを合わせたスタイル。
ブロークコアの人気ブランド「アディダス」「アンブロ」「ナイキ」
ブロークコアと密接に関連するブランドには、次のようなものがあります。
クラシックなトラックスーツ、サッカージャージ、サンバ(1950年ドイツのフットボールチームのため制作されたモデル)で知られる「アディダス」(adidas)。イギリスのスポーツウェアの象徴的なブランドである「アンブロ」(UMBRO)。UMBROは、創業時の社名「HUMPHREYS?BROTHERS」社から、「UM」と「BRO」を抽出して短縮化したもの。
トラックスーツやエアマックス、レトロなジャケットの「ナイキ」(Nike)。モッズ(パーカー付き軍用コート)やカジュアル文化で知られる英国「フレッドペリー」(Fred Perry)。フットボール文化と結びつく高級ブランド、伊「ストーンアイランド」(STONE ISLAND)。
ヨーロッパのサッカーチームの総収入の2割がウェア/グッズの売上
ブロークコアの人気は、世界、特に欧州のトップサッカークラブなどの多くに金銭的な恩恵をもたらしています。FCバルセロナやFCバイエルン?ミュンヘンなどは、チームウェアの売上だけで、それぞれ約2億ドルと1億6,000万ドルを売り上げています。ヨーロッパでは、スポーツウェアはビッグビジネスだと認識されています。
ヨーロッパのプロサッカーを統括する欧州サッカー連盟(UEFA: Union of European Football Associations)によると、ウェア/マーチャンダイジングからの収入は2019年のレベルを60%上回っています。2022年には、上位20クラブがウェアとマーチャンダイジング(グッズ関連)で約12億ユーロ(約1,500億円)の売上を計上。
2023年、スペインのレアル?マドリードの総収入は8.8億ドル(1,200億円)で、そのうちウェアおよびマーチャンダイジングの収入は1.9 億ドル(270億円、収入全体の22%)。同じくスペインのFCバルセロナは、総売上高では9.3億ドル(1,300億円)で、ウェア関連が1.7億ドル(240億円、収入全体の18%)。英マンチェスター?ユナイテッドは、総収入8.3億ドル(1,160億円)でウェア関連が1.4億ドル(200億円、収入全体の17%)。
ちなみに、SNSのフォロワー数のランキング第1位がレアル?マドリード(2.52億人)、第2位がFCバルセロナ (2.50億人)、第3位がマンチェスター?ユナイテッド(1.4億人)です。
「ブロークコア推し」のデュア?リパ、ベラ?ハディッド、SKEPTA、NewJeans
多くのセレブリティやインフルエンサーがブロークコアを取り入れています。例えば、デュア?リパやベラ?ハディッドは、ヴィンテージのサッカージャージをストリートウェアと組み合わせたファッショナブルなスタイルを披露しています。
デュア?リパは、イギリスの女性シンガーソングライター/ファッションモデルで、ミレニアル世代(1980年代から1990年代)を代表するUK(英国)ポップのアイコン的存在。ベラ?ハディッドは、元祖スーパーモデルのヨランダ?ハディッドを母に持つアメリカ人モデル/タレント。
アメリカの人気コメディアン/タレント、ピート?デヴィッドソン。早いビートの上で早口のラップを展開するグライム MC、ラッパー、イギリスのスケプタ(SKEPTA)。
K-POP第4世代の人気グループ「NewJeans」(ニュージーンズ)のメンバーも、サッカーのユニフォームのブロークコアファッションを楽しんでいます。
さて、2026年6-7月、FIFAワールドカップが、史上初めて、カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国で共同開催されます。試合は16都市で行われ、出場枠はこれまでの32から48チームに拡大。全世界のテレビ視聴者数は延べ310億人を超え、その経済効果を含め世界最大のプロスポーツイベントです。こうしたサッカーの世界的な熱気の継続/拡大とともに、「ブロークコアファッション」も若者を中心にさらに盛り上がっていくのではないでしょうか。