マーケティング最前線!

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なぜ、日本未上陸ファストフード『チックフィレイ』(Chick-fil-A)は、多くのアメリカ人に愛されているのか?

2025.01.14

なぜ、日本未上陸ファストフード『チックフィレイ』(Chick-fil-A)は、多くのアメリカ人に愛されているのか?

日本未上陸!!米国顧客満足度10年連続第1位のファストフードチェーン『チックフィレイ』(チキンサンドイッチ)について、そのブランド哲学や魅力を紹介します!

アメリカ顧客満足度10年連続1位の、家族経営型ファストフードチェーン

2024年6月に発表されたアメリカ顧客満足度指数(ACSI: American Customer Satisfaction Index)によると、「チックフィレイ」(Chick-fil-A)は100点満点中83点を獲得。限定サービス?レストラン?チェーン(limited-service restaurant chains)の中で「10年連続でNo.1」を維持。

「チックフィレイ」(Chick-fil-A)は、「チキンサンドイッチ」(日本の「チキンバーガー」)を専門とするアメリカのファーストフード?チェーン。1946年にS.トルエット?キャシー(S. Truett Cathy)氏によって創業されました。前CEO(最高経営責任者)は、3代目のお孫さんのアンドリュー?トルエット?キャシー(Andrew Truett Cathy)氏で、父(2代目)ダン?T?キャシー(Dan T. Cathy)氏からその地位を引き継ぎました。

本拠地は米国ジョージア州カレッジパーク。現在、全米に2,700以上の店舗を持つ、「チキンフード」を主力とした米国の主要のファストフードチェーンです。日本には「未」上陸ですが、アメリカ旅行好きやアメリカに詳しい人々には、「知る人ぞ知る」ファストフード。

ブランド名の「チックフィレイ」(Chick-fil-A)は、自社の主力商品である「Chicken Filet (チキン?フィレ)」にかけた造語。チキン?フィレとは「もも肉に比べ?さっぱりとしたむね肉を使用した、骨なしタイプのフライドチキン」のこと。

『チックフィレイ』が使用するチキンは「A級」で、ヘルシーかつジューシー!

「Chick-fil-A」の最後の「A」は、Filet(フィレ)の「et」を「A」に置換え。使用するチキンが最高級の「A級」(Grade A)であること、またすべての食材が新鮮(A級)で、笑顔のスタッフの接客も最高級(A級)であることを示唆。

オリジナルのチキンサンドイッチ(4.19ドル、630円)、8個入りチキンナゲット(4.8ドル、720円)、3個入り(チキン)ストリップ(4.85ドル、730円)、ワッフルポテトフライ(2.09ドル、320円)、ミルクシェイク(4.45ドル、670円)。顧客は、チックフィレイの価格設定は、競合他社に比べて、やや高めか同程度という印象を持っているようです。

ブランド名「Chick-fil-“A”」にあるとおり、高品質(Grade “A”)な鶏肉を使用し、肉厚でジューシーに揚げたチキン。揚げたチキンは「カリッ」とサッパリしていますが、しょっぱ過ぎず、薄すぎずの絶妙な味。口の中でとろけるような「ふわふわのバンズ(パン)」に挟まれています。チキンの分厚さとバンズの割合もちょうどいいバランス。

「ヘルシーだけど、ジューシー!」な高級チキンを中心にして、新鮮なレタスとトマト、チーズ、とろけるようなバンズが一緒になる。チックフィレイ流の味の「マリアージュ」が堪能できます。マリアージュ(mariage)とはフランス語の「結婚」を意味し、飲食の世界では「複数の食べ物を一緒に飲食して相乗効果を生む現象」のこと。

ちなみに、圧力鍋とピーナッツオイルを使った、チキンの調理方法は、創業者がS.トルエット?キャシーが開発したもの。現在でも、それが使われているそうです。その「秘伝のレシピ」は、金庫の奥に保存させていて、チックフィレイの社員は誰もそれにアクセスできない、といわれています。

ワッフル型のポテトフライは塩加減もバッチリ!

チックフィレイのポテトフライは、他のファストフード店とは違い、粗めの網のようなワッフル型。一般の細長いポテトよりも食べ応えがあり、新鮮なポテトで、塩加減もバッチリ。

さらに、ソースの種類が多いです。ケチャップ、BBQソース、マスタードなどの定番のソース。それらにくわえて、チックフィレイオリジナルソース、ポリネシアンソース、ガーデンハーブランチソース、バッファローソース、ハニーローストBBQソースもあります。お好みでワッフルポテト、チキンサンドイッチに付けて食べると、自分流の味が楽しめます。

複数のソースだけではなく、ドレッシングも7種類。サイド188bet体育_188bet体育在线@のサラダにも、チックフィレイ流の「繊細なこだわり」が感じられます。

家族の価値観を重視する「株式非公開」企業

現CEOがキャシー家の3代目のアンドリュー?キャシー氏から経営を引き継いだスザンナ?フロスト氏(Susannah Frost、2024年10月1日就任)。同社は「株式非公開」の家族経営で、家族の(キリスト教的)価値観と地域社会への貢献に重きを置いています。

一般に、「株式公開」(上場、IPO: Initial Public Offering)は創業者利益を獲得でき、また、知名度も高まり、資金調達も容易になります。他方で、短期的な利益を優先する株主からの経営方針に対するプレッシャーも強くなるというデメリットもあります。

家族の価値観や地域社会への貢献を重視するチックフィレイの経営方針と、利益優先という外部からのプレッシャーは対立するものなのかもしれません。そうしたなかで、チックフィレイの高い知名度や現在の売上?利益規模にもとづく潤たくな事業資金を考慮すれば、IPO(上場)は必要ないのでしょう。

実際、創業者のS.トルエット?キャシー氏も、上場したら、同社の経営方針に忠実であることはできないのではないか、と懸念を示していたようです。

チックフィレイは「日曜日」「感謝祭」「クリスマス」は休業!

チックフィレイは、従業員が家族と過ごす時間を確保するため、また創業者のキリスト教的信念を尊重するため、「日曜日」は休業という営業方針を採用。もちろん、感謝祭(11月第4木曜日)やクリスマスも休業。創業者のS.トルエット?キャシー氏は、「自分は、日曜日に働きたいとは思っていないのに、従業員に日曜日に働いてほしい、とはいいたくはない」と語っています。

10年連続顧客満足度No.1。その高いレベルの顧客サービスは、創業者であるS.トルエット?キャシーの言葉である「私たちはチキンを売るだけでなく、お客様の一部であるべきです。私たちは、お客様の生活や地域社会の一部であるべきです」の実践の成果だといえます。

チックフィレイのファンは、従業員の丁寧な対応、店舗の清潔さを絶賛し、そのゆるぎないホスピタリティ精神が成功の大きな部分を占めていると評価しています。「お願いします」(Please)や 「ありがとう」(Thank you)など、スタッフから言われるような小さなことでも、顧客として、人間として評価されているように感じられると、顧客は答えています。今日のような非常に複雑な世界では、チックフィレイのほとんどの顧客は『感謝されている』と感じられる場所に行くことで、ハッピーな気持ちになれると考えているようです。

スタッフが顧客のクルマに立ち寄る対面型注文ドライブスルー!

チックフィレイのほとんどの店舗では、ピーク時にドライブスルーで 100 台以上の車が並びます。同社は、顧客のドライブスルー体験が、顧客満足の重要な部分であることを理解しています。

チックフィレイの従業員が、タブレットを手にドライブスルーの列を歩きます。従業員は、お客様のクルマの窓際に行き、注文を受け、それをキッチンに伝えます。注文係が列を歩きながら、今度は、別のメンバーがお客さまのクルマのところまで来て支払いを済ませます。

この方式を採用することによって、従来のスピーカーボックス型ドライブスルーの2倍のスピードでクルマが前に進むことが可能となりました。チックフィレイはこのシステムを「フェイス?トゥー?フェイス?オーダーリング」(face-to-face ordering、対面注文)と呼んでいます。

同社は、「この手法は、大量の車を非常に効率よくドライブスルーに通すことができる素晴らしいシステムである。また、お客様が思いもよらない場所(自分のクルマの中)で、スタッフがお客様一人ひとりに合わせたサービスを提供することができる」と評価しています。

ハーバード大学合格よりも難しい加盟店の審査基準!

チックフィレイ社のフランチャイズ?システム(加盟店)も注目に値します。「フランチャイズ」(franchise)とは、本部と呼ばれる「フランチャイザー」(franchiser)と加盟店(フランチャイジー、franchisee)が契約を結び、フランチャイジーが加盟金(ロイヤリティ)を支払うことにより「商標の使用権」「商品?サービスの販売権」を得るビジネス?モデルのことをいいます。

2022年のデータですが、米国のフランチャイズ?ビジネスの市場規模は約110兆円(日本の国家予算規模)で、雇用者数は8,500万人。フランチャイズの中で一番大きい部門はファストフードチェーンで、市場規模は36兆円です。

チックフィレイ(フランチャイザー)は、出店を希望する人のうち、わずか「0.13%」の人しか受け入れないという、業界屈指の厳格な基準を持っています。毎年6万人からの応募があり、合格するのは80人程度だそうです。

米国最高学府であるハーバード大学やスタンフォード大学の入学試験に合格するよりも難しいとされます。高校生がNBA(全米バスケットボール協会)のドラフトにかかる率「0.03%」よりもちょっと易しい程度です。

加盟者は「1店」だけを運営!

合格するためには、広範な面接プロセスを経る必要があります。面接は、通常数ヶ月、あるいは1年ぐらいかけて実施されます。選考では、職業経験よりも、人格(パーソナリティー)やチックフィレイの経営哲学との相性が重視されるようです。

合格した加盟者(フランチャイジー)は、基本的には1店舗のみの出店に制限されています。多くのフランチャイジー(加盟者)が数十店舗を展開するファストフード業界では非常に珍しい方針だといわれています。

加盟者の1店舗限定運営によって、フランチャイズ契約上は運営者(Operator)である加盟者の中に「オーナー意識」が醸成されます。つまり、チックフィレイのフランチャイズ店舗の運営というより、「自分のお店」を運営しているという感覚です。そうしたオーナー感覚が、より高い顧客サービスにつながっていきます。

加盟者に求められるフランチャイズ料は「1万ドル」(130万円)のみ!

チックフィレイ社の優れた点は、極めて狭き門のフランチャイズに合格すると、個人的な金銭負担は極めて少ないということです。フランチャイズ料として、「1万ドル」(150万円)の出資が求められるだけです。稀に、追加でもう1店舗運営できる場合、2店舗目の出資額は0.5万ドル(75万円)になります)。

従来型のフランチャイズと比較すると、チックフィレイのフランチャイズ料は、極めて良心的に設定されていて、それが加盟の応募数の多さの理由のひとつになっています。チックフィレイの加盟者の年収は、およそ20万ドル(3,000万円)とのことです。

店舗を建設して軌道に乗せるためのスタートアップ費用はすべてチックフィレイ社が負担します。同社は、そうした費用として200万ドル(3億円)まで負担するようです。もちろん、その代わり、契約上で、加盟者は「オーナー」ではなく、「オペレーター」になります。ですから、加盟者が引退するときにフランチャイズ権を売ったり、相続の一部にしたりすることはできません。この方式によって、チックフィレイ社は、その地域のビジネス、店舗などの物理的な財産、そして知的財産(IP: Intellectual Property)を所有し続けます。

合格率「0.13%」の狭き門を突破して店舗を提供された加盟者(フランチャイジー)は、開店に向けて、大規模なトレーニングプログラムを受講します。約6週間にわたるこの研修では、料理の調理、会計、顧客対応、コミュニケーション、メンテナンス、仕入れ、企画、マネジメントスキル、マーケティングなど、「自分」のチックフィレイ店を経営するためのノウハウを学ぶことができます。

チックフィレイの加盟店になることは、「人生の投資」である!

チックフィレイ社のフランチャイズに対する経営哲学は次のとおりです。

「チックフィレイのフランチャイジー(加盟店)になることは、人生の投資である????

フランチャイジーは、時間とリソースを費やしてチックフィレイのブランドを構築し、創業者であるS.トレット?キャシーから始まった素晴らしいレガシーを継承しています。私たちは、私たちが奉仕する人々や地域社会に良い影響を与えるというトレットのビジョンを共有しています」

「フランチャイズは、受動的な金銭的な投資や傍観者としての活動、あるいはビジネスベンチャーのポートフォリオに追加するための機会ではありません。このビジネスチャンスは、クイックサービス?レストランを所有し運営するための、実践的で人生をかけた投資です。長時間労働や、若い従業員を中心とした時給制のチームを率いることが必要になることも少なくありません。大変な仕事ですが、その分、大きなやりがいを感じることができます」

スタッフは、いつも「My pleasure」の挨拶と笑顔で対応!

チックフィレイでは、全米の店舗が同じレベルの品質と顧客サービスを維持することを保証するために、特定の基準を設けています。従業員は 「You’re welcome!」の代わりに 「My pleasure!」という表現を使います。

一般的な「You’re welcome!」と比較し、「My pleasure!」は、「お力添え」できて自分も嬉しいと思うときの「どういたしまして」。「My pleasure!」の方が、相手に「心」が伝わり、顧客とスタッフの両方がハッピーな気持ちになれます。

さらに、店内のテーブルに花を置いたり、無料の食事を提供したりといった同社独特のサービスも、顧客サービスに関してNo.1の座を維持するためのチックフィレイの戦略です。

顧客サービスや地域社会への貢献にくわえ、同社は「サステナビリティー」と「責任ある材料の調達」にも力を入れています。2026年までにケージフリーの卵を100%調達するという目標を掲げ、レストランでの廃棄物の削減と水の節約に取り組んでいます。「ケージフリー」(cage-free)とは「平飼い飼育」のことで、「檻に閉じ込めた養鶏をしない」、鶏にとってより自然環境に近い飼育方法です。

牛を使った「もっとチキンを食べろ!」の広告キャンペーン

チックフィレイといえば、1995年にスタートしたユニークな広告手法でも有名です。

その屋外広告では、牛(Cow)が大きな看板に「Eat Mor Chickin」(Eat More Chicken / もっと鶏肉を食べろ)とユーモラスに書いている様子が表現されています。

絵筆を手にした牛が別の牛の上に乗っています。上の牛が、「Eat Mor Chikin」の文字を黒いペンキで看板に描いています。この看板には、チックフィレイのロゴが、独特のフォントと赤い文字で描かれています。背景は白一色で、牛の白黒の色彩を模倣しています。看板自体はとてもシンプルなものです。

牛が書いている「Eat Mor Chickin」のつづりが間違っているのは、視聴者をクスッと笑わせるための「愛嬌」です。

PR動画 Chick-fil-A | Cows | Thunderstorm (By Chick-fil-A)

2004年には、同社は、第1回「牛感謝デー」(Cow Appreciation Day)を企画しました。このキャンペーンには次のような背景があります。「牛」は牛乳、チーズ、ヨーグルト、アイスクリームなど、非常においしい副産物を生産するのに役立っています。そして、アメリカ人は全体として、それらの乳製品よりも牛肉を多く食べています。牛肉はビタミンやミネラルが非常に豊富な食材です。

ここで人々が忘れてはならないのは、牛や牛肉そのものに感謝することです。牛に感謝するからこそ、「もっと鶏肉を食べよう!」というキャンペーンが意味を持ってくるのです。チックフィレイ社が持つある種のモラルセンス(良心)が伝わってくる広告キャンペーンではないでしょうか。

以上のような経緯から、チキンサンドを主力商品にしているにもかかわらず、同社の広告キャラクターとして牛(Cow)が活用されているのです。

現在、アメリカ人は牛肉よりも鶏肉を多く食べている!

ここで、アメリカ農務省の統計で、鶏肉の消費量の推移を確認しておきましょう。鶏肉の消費は、1940年代から上昇を始め、1996年には豚肉を抜き、2010年には牛肉を抜いて、米国で最も入手可能な肉となっています。2021年時点で、米国では国民1人当たり68.1ポンド(30kg)の鶏肉が食用に供されている(骨なし食用ベース)のに対し、牛肉は56.2ポンド(25kg)となっています。チックフィレイの広告が奏功しているのかもしれません。

日本のファストフードビジネスの市場規模が約4.8兆円(「富士経済グループ」による2024年見込み)。対して、アメリカのそれ(Quick Service Restaurant)は、61兆円(2023年)で、2032年には100兆円に達すると予測されています。「ファストフード王国」アメリカから、チックフィレイを含め、次にどんなブランドが日本に上陸してくるのか、興味は尽きません。

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