創立20周年!東京メトロ(東京地下鉄) 東証プライム上場。10周年キャンペーン時には、米津玄師氏の名曲『アイネクライネ』誕生!
民営化/創立20周年。『東京メトロ』(東京地下鉄株式会社)が東京証券取引所プライム市場へ上場。民営化後の東京メトロの広告キャンペーンと、日本を代表するシンガーソングライター米津玄師氏の名曲『アイネクライネ』(MV3.4億回再生)との「縁」(ゆかり)を紹介します。
創立20周年!『東京メトロ』東京証券取引所上場へ!
2024年10月23日、東京地下鉄(東京メトロ)が、東証プライム市場(最上位市場)に上場しました。個人投資家の買いが進み、初値(はつね)は売り出し価格の1,200円より3割以上高い1,630円、終値(おわりね)は1,739円。この終値にもとづく時価総額は1兆円を超え、今年最大規模の新規株式公開(IPO)となりました。「IPO」は金融?投資用語の「Initial Public Offering」の略。
株主優待として、200株以上を保有する株主に、年2回、保有株数に応じた枚数の同社全線無料乗車証(片道1回分)または全線定期乗車証を発行。くわえて年1回、「そば処めとろ庵かき揚げトッピング無料券」など、同社関連施設の優待券も提供。
東京メトロはもともと「営団地下鉄」(帝都高速度交通営団)として1941年(昭和16年)に設立。今から20年前の2004年4月に「行政改革」(行政組織/運営の効率化、民間活力の導入)の一環として民営化。現在、東京メトロ株主は「2名(組織)」で国(財務大臣)が53.4%、東京都が残りの46.6%を保有。今回の上場では両者がそれぞれ持分50%を売却。20周年での上場の背景には、リーマンショック(2008年)による株式市場の全体的低迷や都営地下鉄(東京都地下高速電車条例に基づき東京都が運営)との経営一元化をめぐる議論などのため先送りされていた事情が存在。
そもそも民営化は「小さな政府」という経済思想に基づいた政策。政府による民間の経済活動への介入を可能なかぎり縮小し市場メカニズムによる自由な競争を促して経済成長を図る思想です。源流は、オーストリア出身のノーベル賞受賞経済学者フリードリヒ?ハイエク(Friedrich Hayek)や米国のノーベル賞受賞経済学者ミルトン?フリードマン(Milton Friedman)らの理論。歴史的には、英マーガレット?サッチャー政権による「サッチャリズム」(Thatcherism)、米ロナルド ?レーガン政権によるレーガノミクス(Reaganomics)と呼ばれる経済政策がその代表例。
この思想は、「20世紀最高の経済学者」と評される英国J.M.ケインズ(John Maynard Keynes)が主張した「財政?金融政策を重視する『大きな政府』」の政策思想に対抗してスタート。今日では、米国の学界/連邦準備銀行(Fed)などの政策当局では、ミクロ経済的なアプローチを採り入れた「市場メカニズム」と「賢明な政府の介入」を組み合わせて経済を安定させる「ニュー?ケインジアン」(New Keynesian)型の政策思想が主流。その代表が、グレゴリー?マンキュー(Gregory Mankiw)教授(ハーバード大学/元大統領経済諮問委員会委員長)とデビッド?ローマー(David Romer)教授(UCバークレー)。
「東京メトロ」上場に伴う売却益は東日本大震災の復興財源に活用
東京メトロの民営化については、東京地下鉄株式会社法の付則(第2条)で「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と規定(「この法律の廃止」とは「完全民営化」(国の法律に規制されない完全な民間会社)を意味)。同社株の売却などを定めた(東日本大震災の)「復興財源確保法」は、2027年度までに確保した売却収入を国は復興債の償還費用に充てるとされています。
東京メトロの東証プライム市場への上場は、東日本大震災の復興という極めて重要な公共政策を支える役割も担っています。もうひとりの株主、東京都も売却益を鉄道や防災などの都市インフラの整備に活用することを検討していると報じられています。
東京地下鉄(東京メトロ)の財務情報(2024年3月期)として、売上高3,892億円、当期利益462億円、営業利益率19.6%。自己資本利益率(ROE: Return on Equity)7.11%、自己資本比率33.1%。
類似事業を営むJR東日本の財務データ(2024年3月期)でいえば、売上高2.73兆円、当期利益1,964億円、営業利益率12.6%。自己資本利益率(ROE)7.6%。自己資本比率27.8%。
簡単にまとめると、東京地下鉄の売上高はJR東日本の1/7。本業で稼いだ営業利益率は東京地下鉄のほうが7%高い。稼ぐ力を示す「ROE」は両社ともほぼ同じ。なお、日本の場合、一般に、自己資本比率は40%~50%以上、ROEは10%以上が理想とされます。
民営化以降の広告戦略:華やかなイメージキャラクターの活用
「20年前」の2004年の民営化をきっかけにして、東京メトロは関連事業でも新しい施策を実施。たとえば、銀座線/半蔵門線の表参道駅に「Echika表参道」がオープンしたのが2004年12月。それ以降、東京地下鉄(東京メトロ)は、関連事業として、「Echika池袋」のほか、駅構内の「Echika」「Echika fit」「Metro pia」といった、様々な商業施設を展開していきます。最近では世界の若者に大人気のオンラインゲームスポーツ「eスポーツ事業」にも参入。
もちろん民営化をきっかけにして、集客/増収および企業イメージアップ、事業領域の東京エリア(千葉/埼玉県の一部を含む)全体のPRに向けた斬新な広報キャンペーンも展開。そして民営化の進度と歩調を合わせるように、東京メトロの広報戦略も磨き抜かれていくのでした。
特に、そうした広報キャンペーンを華やかに彩ったのが、イメージキャラクターの存在。民営化の2004年度に「東京ポジティブで行こう」「ココロも動かす地下鉄へ。」のキャッチコピーのもと、山田孝之さんと井川遥さんが初代イメージキャラクターに就任。その後、山田優さん、宮﨑あおいさん、新垣結衣さん、杏さん、武井咲さん、堀北真希さん、そして石原さとみさんなど、錚々たる人気女優たちがアンバサダーの役割を担ったのです。
では、東京メトロにとって民営化10周年の「2014年」はどんな年だったのでしょうか。実は、現在日本を代表するシンガーソングライター、米津玄師(よねず けんし)氏の名曲「アイネクライネ」が、東京メトロの広告キャンペーン「Color your days.」新CMソング(キャンペーン女優:堀北真希さん)に採用されたのが2014年。
再生数3.4億回越え 米津玄師『アイネクライネ』 Kenshi Yonezu – Eine Kleine (By Kenshi Yonezu? 米津玄師)。
このMVでは、米津氏本人が描いたイラストをアニメーションで表現。
楽曲「アイネクライネ」は、米津氏が東京メトロCMのために書き下ろした作品。彼がタイアップに書き下ろしを提供する初めての「記念すべき楽曲」だったのです。
米津氏は「アイネクライネ」の提供に当たって、当時、次のようなコメントを寄せています。「この曲は、辛い事があっても、ちゃんと前を向いて生きていこうとする曲です。強くあるためには自分の弱さを見つめなきゃいけないと個人的に思います。毎日変わらないでいる事、前を向き続ける事は、本当に難しい事だと思いますが、それを続けているのが、東京メトロだと思い制作しました」(音楽情報サイト『音楽ナタリー』(2014年3月27日)。
米津玄師氏のプロフィールを確認しておきましょう。「ハチ」(HACHI)名義でボカロシーンを席巻し、2012年に本名の「米津玄師」としての活動を開始。米津氏の姉が好きだった矢沢あい氏漫画『NANA』のもう一人の主人公の女性が「ハチ」(ハチ子)と呼ばれていたことが由来とされます。
ボカロとは、ヤマハが開発した音声技術「VOCALOID」を応用したソフトウェアで制作作された楽曲(VOCALOID曲、ボーカロイド曲、ボカロ曲)の総称。映像制作/イラストレーターとしても活躍。ミュージックビデオなどで、米津氏自身が披露するコンテンポラリーダンスも評価が高い。
宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』(2023)の主題歌『地球儀』
代表作は次のとおりです。「Lemon」はTBS金曜ドラマ「アンナチュラル」(2018年1月)の主題歌として書き下ろし「ミリオン」セールスを記録。この「Lemon」は高校用音楽の教科書に歌唱教材として掲載。
子どもユニット「Foorin」(フーリン)に書き下ろしたヒット曲「パプリカ」。アニメーション映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の主題歌「DAOKO×米津玄師「打上花火」」(2017年)。宮崎駿監督の米国アカデミー賞受賞アニメ映画『君たちはどう生きるか』(2023)の主題歌『地球儀』(2023)。大ヒット中映画『ラストマイル』(2024年8月)の主題歌「がらくた」や「さよーならまたいつか!」(2024年NHK連続テレビ小説「虎に翼」主題歌)など。
では、『アイネクライネ』の基本情報を「ピクシブ百科事典」により確認しておきましょう。
「『アイネクライネ』とは、2014年4月23日に発売された、米津玄師2ndアルバム『YANKEE』の収録曲。アルバム発売に先行して2014年3月31日にYouTubeに、2014年4月1日に「ニコニコ動画」にMVが投稿された。
この曲は米津玄師氏の代表曲とも言うべき曲で、ニコニコ動画では「米津玄師」と検索してヒットする楽曲中最も再生数が多い。ニコニコ動画では今もなお『音楽』タグ内デイリーランキングで当たり前のようにトップ10に入っている。?????
????深い意味のこもった歌詞がこの曲の魅力である。その歌詞には様々な解釈がされている。
タイトルの由来は恐らくモーツァルト作曲の『アイネ?クライネ?ナハトムジーク』(Eine kleine Nachtmusik)。ドイツ語で「小さな夜の曲」という意味であり、『アイネ?クライネ』までなら「(ある)小さな」という意味になる。」(「ピクシブ百科事典」より)
ちなみに、「Eine」は不定冠詞(英語「a」)、kleineは形容詞(小さな)、「Nachtmusik」はNacht(夜) + Musik(音楽)の合成語で「夜の曲」。このタイトルはモーツァルト自身が自作の目録に書き付けたものだとされ、いわゆる「セレナーデ」(小夜曲[さよきょく])、つまり、夜に恋人のために窓下などで演奏される楽曲のこと。
タイトル「アイネクライネ」は、「音の響きや字面」から
楽曲タイトルについて、米津玄師(ハチ)氏のTwitter(現「X」)で彼自身の次のようなポスト(2014年3月28日午前10:40投稿)を発見しました。
「『アイネクライネ』ってタイトル、ドイツ語に詳しい人なら違和感があると思うんですけど、この曲はタイトルに迷いまくり暗礁に乗り上げた結果、音の響きや字面によってこうなりました。ちょっと言い訳みたいになるけど注釈。」
この楽曲『アイネクライネ』には「プロも唸(うな)らせる数々のアイデア」が組み込まれているそうです。たとえば、「Official髭男dism」のギタリストである小笹大輔氏は以下のようにコメントしています。
「歌い出しのAメロの部分。歌のメロディーとアコースティックギターとの絡み方が芸術の領域。綺麗な音運びに加え、サンプリングが逆再生などアイディアが最高のセンスで散りばめられている」(情報サイト「snacc」2018年10月27日記事)
民営化後の東京メトロと、名曲『アイネクライネ』の誕生との「結びつき」
米津玄師氏のオフィシャルウェッブサイトの「PROFILE」の説明の中に、次のような記載があります。
「2014年、2ndアルバム「YANKEE」をリリースし、オリコンチャート2位を記録。iTunes年間ランキング「Best of 2014 今年のベスト」ベストアルバムを受賞。「第7回CDショップ大賞」入賞。収録曲の「アイネクライネ」は、初のタイアップとして、東京メトロ2014年広告キャンペーン”Color your days.”CMソングに起用された。それと共に、聴いてくれる人ときちんと向き合う事を決意し、初めてのライブ活動を発表。初ライブであり、ワンマン公演となる「Premium Live 帰りの会」を6月に開催。」(「2024 Kenshi Yonezu / REISSUE RECORDS inc.」ウェッブサイトより引用)
「アイネクライネ」は米津玄師氏の「成長曲線」の「変曲点」!
「アイネクライネ」の楽曲提供による「東京メトロとのコラボレーション」が、米津氏にとって、日本を代表するアーティストへの飛躍の契機になったことが容易に読み取れます。事実、東京メトロのCM曲「アイネクライネ」によって、「知る人ぞ知る」存在から、幅広い世代が米津氏のことを知ることになったといわれています。
(前述のとおり)東京メトロでは、民営化を起点にして、広報戦略がブラッシュアップされ、人気俳優(主に女優)と人気アーティスト/楽曲の活用へと展開。その一連の流れのなかで、民営化10周年時に米津玄師氏の名曲『アイネクライネ』が誕生し、その後の米津氏の躍進へのトリガー(起動装置)になったといえます。同時に、東京メトロの広報戦略の「先見の明」(洞察力)も注目に値します。
仮に、米津氏のアーティストキャリアの「成長曲線」(growth curve)を描いたとすれば、「アイネクライネ」の発表が、右上がりの曲線上での「変曲点」(inflection point)に該当し、その点(ポイント)を通過したのち急激に上昇していく曲線になるのではないでしょうか。
「アイネクライネ」の誕生から10年の時間を経て、今回の東証上場を機に、新たなステージに立つ東京メトロと、日本を代表するシンガーソングライターとして進化し続けている米津玄師氏との次のコラボを持ち望んでいるファンは少なくないでしょう。