マーケティング最前線!

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狂言「シテ」「アド」に由来、「新時代」歌姫「Ado」さんの快進撃!!

2024.05.16

デビュー曲『うっせぇわ』や、アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌『新時代』などで強烈なインパクトをもたらしているアーティスト『Ado』さん。彼女の人気の理由と、音楽専門家の見解をもとに、彼女に代表される「覆面シンガー」の増加の背景を紹介します。

 17歳デビュー高校生シンガー「Ado」の圧倒的な歌唱力!

2020年10月23日にリリースされた楽曲『うっせぇわ』でメジャーデビューを果たした歌手Ado(アド)さん。この『うっせぇわ』はボカロP(ボーカロイド?プロデューサー)のsyudouさんが作詞/作曲。「太くて荒々しいと形容される、Adoさんの圧倒的な歌唱力」、「デビュー時(17歳最後の日)に、Ado(2002年生まれ)さんが高校生(17歳)であったこと」、「17歳という若さで、大人たちの社会を一喝するような辛辣な歌詞」などにより、大きな注目を集めました。

「はぁ?うっせぇうっせぇうっせぇわ」。このフレーズが聴く者の記憶に強烈に残るデビュー曲『うっせぇわ』のYouTube動画再生は3.2億回を超えています(2024年4月時点)。さらに、最近でも、楽曲『唱』(Show)が、Billboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数3億回を突破したと報じられました(2024年4月)。

Adoさんは、小学校の国語の授業に登場した狂言の役柄で用いられる、「シテ」(主役)と「アド」(相手役/脇役)の言葉の持つ響きのかっこよさに共鳴し、アーティスト名として「Ado」を選びました。彼女は、狂言でアドがシテを支える脇役だということから、「歌で誰かの人生を支える脇役になれたら」という意味を芸名に込めているそうです。

アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』主題歌の『新時代』

最近のAdoさんの大ヒット曲が『新時代』。2022年8月6日公開されたアニメ映画『ONE PIECE FILM RED』(興行収入203億円)の主題歌です。この映画では、主人公ウタの歌唱パートをAdoさんが務めました。作詞/作曲を、中田ヤスタカ氏が手掛けました。この『新時代』は、2023年1月末時点で、「Billboard JAPANチャート」におけるストリーミングの累計再生回数で3億回を突破しました。

日本を代表するエレクトロミュージックのプロデューサー、中田ヤスタカ(CAPSULE)氏。彼が書き下ろした『新時代』によって、Adoさんは表現者として新境地を切り開いたと高く評価されています。

映画の中で、Adoさんは、赤髪のシャンクスの娘で、世界の歌姫「ウタ」という役柄を憑依させるような難度の高い歌唱法を取り入れました。すなわち、Adoさん特有の「がなり」(シャウト系の発声法)を抑制し、伸びやかな歌声で、歌詞に込められたエネルギッシュなメッセージ「新時代はこの未来だ 世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば…」を、聴く者すべての心の奥まで届けたのです。

このように大人気を誇るAdoさんですが、歌い手の文化を尊重し、デビュー当時からメディアや取材などへの「顔出し」をしない秘密のベールに包まれた存在でもあります。

Adoさんの人気の要因は「歌唱力」!

Adoさんのこのような高い人気の理由はどこにあるのでしょうか?音楽評論家のスージー鈴木氏は、その理由はAdoさんの「歌唱力」に尽きる、と分析しています。彼女の歌唱力の第1の魅力は、抜群の声量、そして、第2の魅力は、ボーカリゼーション(発声)の多様さです。

スージー鈴木氏は、とにかくいろんな声、いろんな歌い方を持っている、まさに「声のECサイト」だと評価しています。地声、裏声(ファルセット)、シャウト、ウィスパー、さらにはラップ、どれをとっても超一流。野球に例えたら、ストレートだけでなく、驚くほど多様な変化球を使い分ける「声のダルビッシュ有」投手(MLBサンディエゴ?パドレス)のような存在だと、スージー鈴木氏は表現しています(『東洋経済ONLINE』記事 2022年9月3日)。

さらに、バンコク在住のボイストレーナー?IVANA氏も、Adoさんの魅力を次のように解説しています。IVANA氏は、バンコクの5つ星ホテルや有名ジャズバーでシンガーとしても活躍しています。

「Adoさんはなんといっても声の使い分けの巧みがズバ抜けています。喉の高さ、声帯の状態、息の量等、体の緻密なコントロールが出来てこそ可能になるテクニックです。また、一曲の中に沢山の声の種類を入れてしまうと通常はガチャガチャとしてまとまりの無い印象になってしまうのですが、それを逆手に取って声の変化が聞く者を震わせるような効果を生み出しています。????基本的な歌唱技術の高さも相当なものです。声の立ち上がりの早さや、地声と裏声をフリップさせる技術、ウィスパーボイス、力強い高音のベルティングなど、海外アーティストにも負けないテクニックを持っています。どんな曲でも歌いこなせるのではないでしょうか」(『NEWSポストセブン』記事 2021年8月2日)

Adoさんの名曲の一つはコチラ 

『世界のつづき』(ウタ from ONE PIECE FILM RED)再生回数2,600万回(2024年3月末)

「顔出し」しない「覆面シンガー」の増加

ところで、ここ最近、Adoさんのように「顔出し」していないシンガーやユニットが、増えてきています。Adoさんを筆頭に、「ずっと真夜中でいいのに。」(通称「ずとまよ」)という名の「覆面ユニット」、目隠しをしたシンガーのyamaさん、男女2人組の「ヨルシカ」などが活躍中です。

こうした「顔出し」しないアーティスト、あるいは、「覆面シンガー」が、J-POPの世界で増えてきた背景には何があるのでしょうか。

前述の音楽評論家スージー鈴木氏が、「顔出ししない」トレンドの背景を4つの視点から明快に説明しているので、紹介しておきましょう(『文春オンライン』記事(2022年12月25日))。

第1が、「知りたい心理」とそれに伴う話題性の獲得です。つまり、「情報を隠されると、見たくなる」効果です。これは、マーケティング心理学で「カリギュラ効果」と呼ばれます。人は、「禁止される」または「制限される」と逆にそれが気になってしまいます。

昔話の「鶴の恩返し」では、鶴が「決して部屋をのぞかないでください」と言うと、鶴を助けた老夫婦は気になって中をのぞいてしまいます。「ダイエットをしたい人は見ないでください」や「決してひとりで見ないでください」などの文句が、かえって人々の関心を駆り立てます。

人間は基本的に自分自身の行動を自由に決めたいと思っています。その自由意志に対して制限や禁止をされると「自由を奪われた」とストレスを感じます。その結果、そのストレスを解消するため反射的な行動として禁止されたことをしてしまうのです。「人が自由を制限された際に、それに抗おうとする性質」は「心理的リアクタンス」(psychological reactance)と呼ばれます。

ちなみに、「カリギュラ効果」という言葉は、暴君として知られる『ローマ皇帝カリグラ』(Caligula, カリギュラとも表記)をモデルにした1980年のイタリア?アメリカの合作映画『カリギュラ』に由来。同作があまりにも過激な内容のため、アメリカではボストン(マサチューセッツ州)などの一部地域で公開禁止になり、かえって世間の注目を集めたことに起因するそうで、日本独自の用語とされます。

覆面によって、アーティストのプライバシーが保持される

第2が、プライバシーの保持です。スージー鈴木氏は「『顔出しするといろいろ面倒』という消極的理由」として指摘しています。日本において、「顔バレシンガー」として、街角で指をさされ、サインをねだられ、場合によっては白い目で見られ……というのは、強烈なストレスの種になることが多いとされます。

この点に関して、スージー鈴木氏は、Adoさんの次のようなエピソードを紹介しています。「ちなみにAdoはサイト「Real Sound」のインタビュー(21年10月19日)において「私の歌がバンバン流れてる薬局とかで、『すいません、これください』って普通に生活用品買ってる」と答えているので、「覆面」の効果は絶大のようだ。」

第3が、「元来の匿名性」です。これらのアーティストが、もともとネット発、つまり匿名メディア発のシンガー/ユニットだということです。大まかに言うと、ここにあげたアーティストのは、アマチュア時代、顔出しをせずにネットに上げた作品が人気を博し、それをきっかけにして、メジャーレーベルと契約しブレイクするというルートを歩いてきています。

つまり、従来型の「顔出し」が前提の「リアルな場」(オーディションやライブ)を経由しない「純粋覆面性」あるいは「元来の匿名性」を、音楽活動のスタート時点から備え、メジャーデビュー後も保ち続けているということです。

世間の「ビジュアルに対する強烈なプレッシャー」からの解放

第4が、世間の「ビジュアルに対する強烈なプレッシャー」からの解放です。これは、女性アーティストに特に顕著な傾向として見受けられます。日本において、従来から、アーティストが「女性」という記号(社会習慣的な約束によって、一定の内容を表すために用いられる文字?符号)を備えた瞬間、歌や音楽そのものだけでなく、外見やファッション、その他の立ち居振る舞いも含めたビジュアル全体で評価される嫌いがあることは否定できません。

特に、現代のSNS時代においては、ビジュアルに対するネガティブな評価やコメントが、アーティストの創造性やモチベーションを深く削いでしまう可能性も十分に想定できます。アーティストが、そうしたネガティブなプレッシャーから解放される意義は、アーティストの創造的な活動にとって、一般人がうかがいしれないほど大きいのではないでしょうか。

スージー鈴木氏は、以上のような背景を次のようにまとめています。「『覆面』は歌や音楽に集中する絶好のツールなのである。加えて『リアル』を放棄することによる副次的効果として、話題性も獲得できるし、日常生活のストレスも感じることはないし、さらには、ネットの世界で活躍していたアマチュア時代とシームレスな形で活動ができるのだ。」

以上のように、「顔出し」しないアーティストの増加は、日本の音楽業界において、「新しい時代」の到来を私たちに予感させます。

ゲフィン?レコードとの提携で、米国へ本格進出!

覆面シンガーの代表的な存在であるAdoさんは、2022年10月24日、20歳の誕生日の日に、ユニバーサルミュージックグループ傘下にあるアメリカのレーベル、ゲフィン?レコードとパートナーシップを締結することを発表しました。ゲフィン?レコードは1980年にアメリカで創設された音楽レーベルです。米国の老舗レコード会社が、Adoさんの本物の実力を認めたのです。

Adoさんは、米国への本格進出にあたって次のようコメントを発しています。「私自身の限界に挑戦するために、今回アメリカのゲフィンレコードとパートナーシップを結ぶ事となりました。世界的に有名なチームと一緒にJ-POPを、VOCALOIDを世界に発信していきます。???」。

そして、全米デビューを発表した2週間後の2022年11月4日、アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』は、米国で公開されました。米国の有力映画批評サイト「ロッテントマト」(Rotten Tomatoes)で、批評家の評価(TOMATOMETER)と観客の評価(AUDIENCE SCORE)がともに「95%」と高評価となりました。

観客からは「卓越したアニメーション、優れたストーリー、印象的な音楽–『ONE PIECE FILM RED』は、これまでのフランチャイズで最高の作品かもしれない」というコメントが寄せられています。

なお、2024年4月27-28日の2デイズで、Adoさん自身最大規模となる国立競技場(東京)でのワンマン?ライヴ「Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」」が開催されます。チケットは2デイズとも即完売。2日間で14万人以上の動員となります。

J-POPの「新時代」(New Era)を象徴するアーティストとして、日本はもとより米国、世界マーケットでのAdoさんの今後の活躍が楽しみです。

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