飴に気泡がたくさん入っているのが美味しい「りんご飴」
「お祭り」と聞くと「りんご飴」を想像する人は少なくないかもしれません。鮮やかな「赤色」で甘くて美味しい飴菓子。でも、大きすぎて顔や口の周りを赤色でベタベタにしてしまうこともよくあります。ネット上では、家に持ち帰って、一度冷蔵庫で冷やし固め直して一口サイズに切って食べるのが賢い食べ方だと紹介されています。
美味しい「りんご飴」の見分け方のポイントは、飴の中に気泡がたくさん入っているかどうか。新鮮で美味しいいりんごほど、気泡が入りやすいそうです。
「矢野経済研究所」によると、2022年度の流通菓子市場規模は前年度比1.3%増の1.1兆円の規模。商品としては、チョコレート、ビスケット類、米菓、豆菓子、スナック菓子、チューインガム、キャンディー?キャラメル、輸入菓子など。
全体的に価格改定が続くなか、スナック菓子やグミを中心としたキャンディー?キャラメル市場の需要が堅調。原材料費の高騰により、メーカー各社は高付加価値化を重視。単価アップを目指し、1個当たりの食べ応えをアップしたプレミアム菓子や、健康的価値をプラスした商品投入などが目立っているようです。
「りんご飴」はアメリカで誕生したお菓子
さて、「りんご飴」は、ある有力な説によると、アメリカ人によって発明されました。1908年、東海岸ニュージャージー州最大の都市ニューアーク(Newark: 発音は「ノーク」に近い)のベテラン菓子職人のウィリアム?W?コルブ(William W. Kolb)氏が赤い「りんご飴」(Apple Candy)を製造したのが始まりです。
ニューアークは、マンハッタン島の13km西に位置し、ニューヨークと経済的な関係が深い都市です。東海岸に詳しい方なら、ニューヨーク近郊の空港として、「JFK」「ラガーディア」とともに「ノーク(ニューアーク)」の名前もよくご存知だと思います。
コルブ氏が、自分のキャンディーショップで、クリスマス商戦用の赤いシナモン?キャンディの製造の実験をしていたとき、彼はいくつかのリンゴをキャンディーの材料に浸し、ショーウィンドウに並べたそうです。
彼はその「りんご飴」を1個5セントで販売し、その後毎年、「りんご飴」数千個を売り上げました。1948年の「ニューアーク?ニュース」(Newark News)によると、やがてコルブ氏の「りんご飴」はジャージー?ショア(ニュージャージー州の海岸地域)沿いや「サーカス」、全国のキャンディ?ショップで売られるようになり、次第にアメリカ全土に浸透していきました。
2014年から続く日本の「りんご飴」ブーム
日本で「りんご飴」がいつごろ登場したかについては、大正時代、あるいは戦後(1945年以降)の屋台で売られ始めた説などいろいろあるようです。
さて、日本で、この「りんご飴」の人気が、2014年からずっと続いています。情報サイト『テンポスフードメディア』(TENPOS food media)の分析にもとづき、「りんご飴」人気の経緯と要因を整理しておきましょう。
第1は、2014年の「りんご飴専門店」の登場です。それが、「ポムダムールトーキョー」(POMME d’AMOUR TOKYO)です。
代表取締役社長の池田喬俊(たかとし)氏が、ビジュアル志向の屋台のりんご飴に違和感を持ち、2014年に東京?新宿に、りんご飴の製造特許を取得した日本で初の、唯一のりんご飴専門店をオープンしたのです。
製造特許を持つりんご飴専門店「ポムダムール」
フランス語の「ポムダムール」は直訳すると「愛のりんご」。また「りんご飴」という意味もあるそうです。同店は、表面にシナモンやパウダーミルクなど粉状の食材をまぶした進化系「りんご飴」の「先駆け」となった人気専門店です。
従来のりんご飴とは一味違い、本格派の美味しいりんご(青森県産のふじ)を使い、ジューシーな果汁と薄くコーティングした飴が絶妙なマリアージュ(調和)をもたらす「ポムダムール」の「りんご飴」が大きな話題になりました。
韓国のフルーツ飴「タンフル」の上陸
第2が、韓国のフルーツ飴「タンフル」(意味:フルーツ飴)の日本上陸です。2019年に、韓国でフルーツ飴の「タンフル」が流行しました。イチゴやブドウなどのフルーツを薄い飴でコーティングしたもので、中国の伝統菓子が元になっています。旬の果物を使っているためジューシーで、柔らかな果肉とパリッとした飴との食感の違いが楽しめるのが人気の理由です。
タンフルのビジュアル面の可愛らしさが、SNS映えし、K-POPアイドルたちもこぞって画像を投稿しブレイクを後押し。また、(後ほど説明するとおり)飴を噛み砕く「パリパリ」という咀嚼(そしゃく)音も人気があり、ASMR(咀嚼音)系動画でも注目されました。
この「タンフル」が韓国の流行として日本に上陸し、イチゴ、ブドウ、みかんとともに、りんごも人気となり、日本の従来の「りんご飴」とは少し異なった経路で広まったのです。
王道ラブコメディ『恋は続くよどこまでも』の影響
第3が、2020年1月期に放映された人気恋愛ドラマの「りんご飴を食べるシーン」の影響です。そのドラマが『恋は続くよどこまでも』(TBS系)です。
「ドS」な男性医師(佐藤健さん)の態度に憤慨しながらも、恋と仕事に対して懸命に食らいついていく女性看護師(上白石萌音さん)の姿を描く王道ラブコメディ。『恋つづ(こいつづ)』の愛称で大ブームになりました。意表をつくイントロの主題歌『I LOVE…』(Official髭男dism)も大ヒットしました。
その第7話で、上白石さんが食べていたのが、本格スイーツのりんご飴専門店『代官山Candy apple』の「ホワイトチョコレートりんご飴」。繊細なバニラの香りが印象的なバランスのとれたホワイトチョコと、ミルク感たっぷりなヨーグルトをミックスしたもの。番組放映直後から、SNS上で「あのりんご飴、どこの?食べたい」とバズりました。
パリパリ食感が人気「ASMR」動画に!
上記のような経緯を踏まえて、前述の情報サイト『テンポスフードメディア』は、現在の「りんご飴」ブームを支える【2つのポイント】を明快に指摘しています。
【第1のポイント】が、「ASMR」動画で聴く「りんご飴」のパリパリ食感の音です。「ASMR」(Autonomous Sensory Meridian Response)とは、「自律感覚絶頂反応」、つまり「人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よい、脳がゾワゾワする反応?感覚」のことです。「meridian」とは「絶頂、極点、全盛期」という意味。ASMR動画を視聴すると、リラックス効果やストレス解消などの効果が期待でき、YouTube動画でも人気の高いジャンルとなっています。
ASMR系の動画には次のようなものがあります。第1が「咀嚼音」。食べものを噛むときや飲み込むときの音。例えば、チョコレートアイスを噛む音や、揚げもの(フライドチキン)を食べる音が映像とともに流れます。
第2が「自然の音」。雨や風などの自然界の音。川のせせらぎや小鳥のさえずりなども自然音に含まれており、リラックスして眠りたいときや集中したいときに役立ちます。
第3が「効果音」。特定の動作のときに発生する音のこと。砂を切る音、耳かきの音、石鹸を削る音、スライム(ネバネバしたゲル状のおもちゃ)をこねる音など。
「りんご飴」の場合、(前述したとおり)食べるときの咀嚼音や、店頭で小口用にナイフで切り分けるときの音が、ASMRとしての人気につながっています。飴を食べる時のパリパリという音と、りんごを噛むときのシャクシャク(サクサク)という音が心地よいと評判になり、多数の動画が投稿されています。
「映える」トッピング系「りんご飴」
【第2のポイント】が、「映えるトッピングの進化系りんご飴」です。「りんご飴」の本来の赤色だけでなく、トッピングなどで、さらに色鮮やかとなったビジュアルや、丸くてかわいいフォルム(形)のすべてが、「画像映え」の要素となっています。
それ自体の画像に加え、「りんご飴」は、映え系画像を撮影するために人物を引き立てる貴重な小物にもなっているそうです。たとえば、顔の近くに持ってくれば顔色もよく見える。その丸いフォルムによって画像全体が可愛くなる。さらに、「りんご飴」を口に入れる仕草で、キュートな表情が作れる、など。
最近では、トッピングによって「りんご飴」はさらに映えるスイーツへと進化しています。ホワイトチョコ、シナモンシュガー、チョコ、宇治抹茶、練乳、生クリーム???。人気レシピサイトでは、「デコレーションカラフルりんご飴」の作り方なども紹介されています。
日本には、この「りんご飴」以外にも、良質で美味しい伝統的なお菓子がまだまだたくさんあります。専門店の登場、韓国人気菓子ブーム、ASMR、映え系要素、ヒットドラマなど、時代の波にうまく乗って進化しながら人気を維持し続けている「りんご飴」の成功には、日本の伝統菓子の再起動/再躍進にあたって参考となるヒントがたくさんあるように思います。