『エブエブ』がアカデミー賞7冠制覇!
アメリカを中心にヒットしているシュールなSF映画『エブリシング?エブリウェア?オール?アット?ワンス』(Everything Everywhere All at Once)。英語で『EEAAO』と短縮され、日本では『エブエブ』と呼ばれています。
その『エブエブ』が、2023年のオスカー(The Oscars 2023、第95回アカデミー賞)で作品賞を含む7冠に輝きました。アメリカでは「これまでの人生で最高の映画!」と高く評価する者も少なくなく、アカデミー賞の大本命とみなされていました。
アメリカ人は、普通、「アカデミー賞」ではなく「オスカー」という言葉を使います。受賞者に贈られるゴールドの人型の彫像のニックネームです。アカデミー賞の賞金や出演料は「ゼロ」。真の報酬は、映画人としての「最高の栄誉」とその後に続くビジネスチャンス。2023年、その最大の栄誉を『エブエブ』が席巻したのです。
監督チームのダニエルズ(ダニエル?クワンとダニエル?シャイナート)は、作品賞、監督賞、脚本賞を受賞。主演女優賞は、マレーシア出身のミシェル?ヨー(『シャン?チー/テン?リングスの伝説』)。アジア系の俳優がオスカーの主演賞を獲得するのは男女を問わず史上初めてという快挙です。さらに、キー?ホイ?クァン(『インディ?ジョーンズ/魔宮の伝説』)が助演男優賞、ジェイミー?リー?カーティス(『ハロウィン』シリーズ)が助演女優賞に輝きました。
この『エブエブ』の受賞は、ハリウッドのメインストリーム(主流)がアジアの物語やクリエイターを受け入れはじめた文化的な転換を意味する、という分析もなされています。
マルチバースとカンフーを合わせた映画?
アメリカの最大手の映画批評サイト「ロッテントマト」(Rotten Tomatoes、腐ったトマト)で、この作品に対して、肯定的評価(トマトの新鮮度)を示す「トマトメーター」(Tomato Meter)が94%に達しています。「ロッテントマト」では、一般に、肯定的レビューが60%以上の場合は「fresh」((トマトが)新鮮な)、60%未満の場合は 「rotten」((トマトが)腐った)と格付けされます。サイト名は「演劇を見た観客が内容のひどさに怒って『腐ったトマト』を舞台へ投げつけた古い習慣」に由来します。
『エブエブ』のタイトルを直訳すれば『なんでも、どこでも、いっぺんに』になります。本作のテーマである「マルチバース」(multiverse)を示唆しています。マルチバースとは、「ひとつの宇宙」(universe)に対立する概念で「多元宇宙」のこと。私たちのいる宇宙以外に観測することのできない複数の宇宙が物理学的に存在しているという考え方です。
日本での配給はギャガ社が担っています。同社の公式サイト(https://gaga.ne.jp/eeaao/)やフライヤー(チラシ)で、『エブエブ』は次のように紹介されています。
「マルチバースとカンフーで世界を救う!?A24史上破格のスーパーヒット!」
「家族の問題に悩み赤字コインランドリーの経営に頭を抱えるフツーのおばさんが、新たなヒーローとして世界を救うという、全人類が初めて体験するアクション?エンターテインメントを完成させた!」
マーベルスタジオ(MARVEL STUDIOS)のスーパーヒット映画『アベンジャーズ』を監督したルッソ兄弟(The Russo Brothers)が、この映画の「ぶっ飛んだトンデモ脚本」に惚れ込んでプロデューサーに名乗り出たほどの作品です。
「ソーシャル?カレンシー」の面でも「推し」!
アカデミー賞7冠制覇のニュースを知り、筆者も映画館に駆け込みました。評判どおり、とにかく「ぶっ飛んだ」作品です。ストーリー展開は混沌(chaos)としていますが、笑えるシーンもたくさんあります。突拍子もないストーリー展開から、素直に楽しめる作品ではなく、鑑賞前の予想に反して面くらう人も出るかもしれない。そう評価する日本のレビューも存在します。
ソーシャルメディア?マーケティングで「ソーシャル?カレンシー」(social currency:社会的貨幣)という用語がときどき使われます。「あの映画、もう見たよ!かなりヤバイよ!」と人にちょっと自慢できるような情報を持つということです。筆者としては、「ソーシャル?カレンシー」という視点でも、この映画は「推し」です。
「2時間20分」のやや長めの映画。これからご覧になる方には、水分調整をしっかりして全編集中して鑑賞されることをオススメします。集中して見ていると、やがて終盤に向かってストーリーのカオス状態が解消されていきます。